オノ・ヨーコからの賞の受諾スピーチ原稿
以下は、10月4日にバヌヌ氏から受け取ったメールの拙訳です。ただし、彼の詩「私はスパイ」は広島平和文化センターの翻訳ボランティアの方によるものです。
養父母のエオロフ夫妻が授賞式で代読しました。
オノ・レノン賞
ニューヨークでの受諾スピーチ
モルデハイ・バヌヌの代理としてニック・エオロフとメアリー・エオロフが朗読
[モルデハイから直接受け取ったメッセージを読み上げたいと存じます。彼はここに来てこの賞を受け取ることができません。というのも、イスラエルの核兵器能力についての真実を述べたために18年の刑に服しながらも、イスラエル政府が依然として彼が充実した自由な生活を送ることを妨げる過酷な制限を課しているからです。] メアリーとニックが彼ら自身の自己紹介をするでしょう。ここでは単に挿入したに過ぎません。
21世紀において世界中の人々が内部告発者の重要性を認識し高く評価しはじめています。全人類のために責任を取る勇気を持つ人、全人類のために行動する勇気を持つ人のことです。内部告発者はこの地球上の生命と人々の安全を心に刻んでいます。そしてその人はマス・メディア -知識と良心が結合された力として- を通して直接、大衆に知らせることで、大惨事を阻止するために行動します。マスコミがあるこの時代において情報は秘密であるべきではありません。民主主義において、それは人々に公開され利用されるべきです。たとえその人自身の自由を犠牲にすることとなっても、人々の目となり耳となることがいずれ内部告発者となる人物の務めになるのです。
内部告発者は真実を語ることによって沈黙することを拒否することで自らの自由を危険にさらし、高い代価を支払います。政府が核の秘密について意図的に大衆に知らせないようにする時、光をあて人々に知らせるために自らの人生を犠牲にする準備のある人物にその役割が降りかかります。イスラエルのケースの場合、その核兵器プログラムの程度を明かすリスクを背負うのが私となりました。決断するのは簡単ではありませんでしたが、しなければならないことは分かっていました。私に対してイスラエルが始め、今も続いている全ての戦いにもかかわらず、自分が成功したことに大きな幸福を感じています。
私は後悔していません。マス・メディアを通じて全世界にイスラエルの核兵器の秘密を公表したことを誇りにし幸せを感じています。真実を語った後、18年間、私はしっかりと抵抗してきましたし、また抵抗し続けていきます。個人的な苦しみにもかかわらず、私は耐え抜きました。ローマで誘拐され、世界から孤立し、自分の行動に如何なる敬意や名誉を感じることもできませんでしたけれども。大衆は知る権利があり、イスラエルの核兵器の秘密についての真実を知らなければならないと、私は信じつづけています。私は18年経ってから釈放されました。その内、11年半は独房という最もひどい状態に置かれていました。今こそ発言できる値打ちがあります。しかし、イスラエルは、自らが隠し続けている破滅的な核兵器について人々が知る権利や言論の自由を尊重しようとしません。そこに内部告発者の重要性があります。世界は内部告発者たちが現れることを必要としています。
イスラエルの核兵器について二、三、述べてみたいと思います。1986年までにイスラエルは大衆あるいは外国政府の想像を超えて、秘密裡に大量破壊兵器を備蓄していました。水爆を新たに製造したのを含みおよそ200の原子爆弾です。疑いなくこの18年は更にもっとでしょう。政府は自らの名前で製造された兵器について大衆に知らせる義務があると私は信じます。イスラエル政府は自らの国会であるクネセットにさえ決して知らせませんでした。将来における事故の矛先に無防備であろう近隣のアラブの国家に対して気にもかけていないのです。
私が発言した理由は、人々にこのニュースを伝えるため、知らせて、そしてイスラエルの兵器政策に積極的に問いかけるよう促すためでした。このような兵器が使用されるという脅威に加えて、ディモナの原子炉にあるような査察のない核兵器の備蓄は、その地域の人々の健康のみならず中東とその近くの地域の環境にとって危険なのです。
国連と影響力を持つ民主国家の政府への私のメッセージは、「国際原子力機関による査察のためにディモナを公開し、如何なる戦争においても核兵器の使用を妨げるためにあらゆる必要な措置をとれ」ということです。エルバラダイと国際原子力機関は、自らが査察する権利を有していることを主張すべきです。次にイスラエルを核兵器のない地域にし、そして中東の全地域が核兵器のない地帯にするためにあらゆる必要な措置をとってください。
国連は全ての大量破壊兵器を非合法とすることによって、それらの廃止を求める決議を採択する勇気を今こそ持つべきだと信じます。原爆の製造、所有、使用を禁止してください。そのことはもしかすると国連及び国連事務総長が、このはかない世界の60億の人々のために与えられる最も素晴らしい贈り物かもしれません。私たちは核兵器の脅威と共存しつづけることはできないのです。
「私はスパイ」の紹介。1987年、アシュケロン刑務所にて執筆
私はスパイ
モルデハイ・バヌヌ
私は事務員であり、技術者であり、機械工であり、運転士だ。
これをやれ、あれをやれ、左も右も見るな、書類を読むなと言われる。
機械全部を見るな。
お前はこのひとつのボルトだけつければいいんだ。このゴム印分の責任しかないのだ。
お前はこれだけを心配しろ。お前の頭上にあるものについて思い煩うな。
我々のことを考えようとするな。そのまま運転を続けろ。走りつづけろ。走れ。
やつら、大物や、賢者や未来学者たちはそう思っている。
恐れることは何もない。心配するな。
全ては順調にはかどっている。
我々のつまらない事務員は勤勉な働き者だ。彼は単なる機械工だ。
彼は小物だ。
つまらないやつの耳には聞こえないし、目はきかない。
我々には頭脳があるが、やつらにはない。
やつらに仕返ししてやれと、つまらないやつは独り言を言っていたが、そいつには自分で考える頭脳があるのだと言った。誰の責任だ?この列車はどこに向かっているのか誰が知っているんだ?
やつらの頭脳はどこにあるんだ?私にだって頭脳はある。
なぜ私にはエンジン全体が見えるのか。
なぜ私には崖っぷちが見えるのか――この列車には運転士が乗っているのだろうか。
その事務員兼運転士兼技術者兼機械工は見上げた。
彼は後ずさりし、見たものは――なんという怪物:信じられないほどだ。目をこすってみたが、やはり怪物はそこにいた。私は正気だ。私は怪物を見ている。しかも私はこの一味なのだ。
私はこの書類に署名をした。今になってやっとその書類を読んでいるのだ。
このボルトは爆弾の一部なのだ。このボルトは私だ。
なぜ私にはわからなかったのか、それに他の人々はどうやってボルトをつけ続けているのだろうか。
ほかに誰が知っているのだろうか。
誰が見ただろうか。誰が聞いただろうか。――皇帝は本当は裸なのだ。
私は皇帝を見てしまった。なぜ私が?私には向いていない。あまりにも大きすぎる。
立ち上がって叫ぶのだ。立ち上がって皆に話すのだ。
君なら出来る。
ボルトみたいにつまらないやつで、技術者で機械工の私が?――そうだ、おまえだ。
お前は皆の秘密諜報員なのだ。国の目なのだ。
諜報員よ、お前の見てきた事を話してくれ。
内情に明るい者や賢い者が我々から隠している事を話してくれ。
お前がいなければ、絶壁があるのみだ。
災難があるのみだ。
選択の余地はない。私は一小市民で、その他大勢のうちの一人だが、
しかしすべきことをやろう。私の内なる声を聞いたし、隠れる所はどこにもない。
世界は国家権力にとっては、小さい、小さいものだ。
私はあなたの命令に従おう。私の義務を行おう。私は本気だ。
自分で来て見てごらん。私の重荷を軽くしてくれ。
列車を止めよ。
列車から降りるのだ。次の停車地では――核の惨事が起こるからだ。
そうなれば次の本、次の機械は、いや、そんなものはなくなってしまうのだ。
最後にこの賞を受け取ることが名誉だということを申し上げたいです。オノ・ヨーコ氏が私に受賞する価値があると思って下さったことをとても有難く思っています。この賞は、私がイスラエルの牢獄で18年間耐え抜いてきたことを公に認めてくれました。パレスチナ人とイスラエル人の平和と中東における大量破壊兵器廃絶の実現のために、私は手助けすることを約束します。長年に渡って平和、非暴力、そして核兵器廃絶のメッセージを伝えてきたオノ・ヨーコ氏の歩みを私はたどります。平和への道のりは軍縮と全世界の全人類への尊重によって築かれるのです。
この受諾スピーチをジョン・レノン氏の作品に敬意を持って触れることで終えたいと存じます。彼はその短い人生の間、平和のために倦むことなく活動し続けました。オノ・ヨーコ氏と共に、彼は自らの決意、道義心、勇気、誠実さを通して平和のメッセージを伝えました。
僕を夢想家だと君は言うかもしれない。
でも僕だけじゃないんだ。
いつか君が僕らに加わることを望んでいるよ。
そしたら世界はひとつになるんだ。
あらゆる核兵器のないひとつの世界を
有難うございました。
バヌヌ・モルデハイ・ジョン・クロスマン
2004年10月3日
(訳注:バヌヌ氏の名前のことだが、ジョン・クロスマンというのはキリスト教に改宗した彼のクリスチャン・ネームである)
THIRD DRAFT
Ono-Lennon Award
Acceptance speech, New York
Delivered on behalf of Mordechai Vanunu by Nick and Mary Eoloff
[We would like to read to you a message directly from Mordechai. He is
unable to be here in person to receive this award due to the oppressive
restrictions of the Israeli government that still prevent him from leading a
full and free life, despite having served a sentence of 18 years for telling
the truth about Israel’s nuclear weapons’ capability.] – I imagine Mary &
Nick will write their own introduction – I just put this here for context.
In the 21st century, people all over the world are beginning to acknowledge
and appreciate the importance of the whistleblower. The one who has the
courage to take responsibility on behalf of all humanity, the one who has
the courage to act on behalf of all humanity. The whistleblower has in mind
the safety of life on this earth, the people. He or she acts to prevent
catastrophe by informing the public directly through the mass media – such
is the combined power of knowledge and of conscience. In this age of mass
communications information should no longer be secret, and in a democracy it
should be open and available to the people. It is the task of the
individual, who later becomes a whistleblower, to be the eyes and ears of
the people, even if it will cost him his liberty.
A whistleblower pays a heavy price by putting their freedom at risk for
refusing to remain silent by telling the truth. When a government
intentionally keeps the public in the dark about nuclear secrets, it falls
on the individual who is prepared and ready to sacrifice their life in order
to shed light and let the people know. In the case of Israel, it fell on me
to take the risk of revealing the extent of their nuclear weapons programme.
It was not an easy decision to make but one that I knew I must make. I am
very happy that I succeeded, despite all the war Israel made, and continues
to make, against me.
I have no regrets. I am proud and happy to publish israel NWs secret to all
the world through the mass media. I have stood firmly behind this act of
truth-telling for 18 years, and I continue to do so. Despite the personal
suffering I have endured,kidnapped in Rome, being isolated from the world
and feeling no respect or honour for my actions, I continue to believe that
the public has a right to know, and must know the truth about Israel’s
nuclear weapons secrets. I was released after 18 years, 11 and half years
in the most appalling conditions of solitary confinement, and I deserve to
be able to speak now, but Israel is not ready to respect the freedom of
speech and the rights of the people to know about the catastrophic nuclear
weapons that Israel continues to clothe in secrecy. That is the point of a
whistleblower; the world needs these phenomena of WHISTLEBLOWERS.
I would also like to say a few words about Israel’s nuclear weapons. By
1986, Israel had produced in secret, beyond the imagination of the public or
foreign governments, a stockpile of weapons of mass destruction.
Approximately 200 atomic bombs including the new production of Hydrogen
bombs and, undoubtedly, much more in the last 18 years. I believe that
governments have a duty to inform the public about weapons being produced in
their name. The Israeli government did not even inform their own
parliament, the Knesset, never mind the neighbouring Arab states that will
bare the brunt of any accident in the future.
My reason for speaking out was to bring this news to the people, to inform
them and encourage active questioning of Israeli weapons policies. In
addition to the threat posed by the use of such weapons, a stockpile of
nuclear weapons without inspection, such as at the Dimona reactor, is a
danger to the health of the people of the region as well as the environment
of the Middle East and beyond.
My message to the United Nations and to influential democratic governments
is “Open Dimona for inspection by the International Atomic Energy Agency and
take all necessary steps to prevent the use of nuclear weapons in any war”.
Al Baradei and the International Atomic Energy Agency should insist they
have a right to inspect. Next, take all steps to make Israel a nuclear
weapons free zone, and all the Middle East free from nuclear weapons.
I believe the UN should now have the courage to pass a resolution calling
for the abolition of all weapons of mass destruction by making them illegal.
BAN the production, possession and use of atomic bombs – that is
potentially the greatest gift the United Nations and the UN Secretary
General could give on behalf of 6 billion people in this fragile world. We
cannot continue to exist with the threat posed by nuclear weapons.
Introduction to “I am your spy”, written from Ashkelon Prison, 1987 Israel
I Am Your Spy
by Mordechai Vanunu
I am the clerk, the technician, the mechanic, the driver.
They said, Do this, do that, don’t look left or right,
don’t read the text. Don’t look at the whole machine. You
are only responsible for this one bolt. For this one rubber-stamp.
This is your only concern. Don’t bother with what is above you.
Don’t try to think for us. Go on, drive. Keep going. On, on.
So they thought, the big ones, the smart ones, the futurologists.
There is nothing to fear. Not to worry.
Everything’s ticking just fine.
Our little clerk is a diligent worker. He’s a simple mechanic.
He’s a little man.
Little men’s ears don’t hear, their eyes don’t see.
We have heads, they don’t.
Answer them, said he to himself, said the little man,
the man with a head of his own. Who is in charge? Who knows
where this train is going?
Where is their head? I too have a head.
Why do I see the whole engine,
Why do I see the precipice–
is there a driver on this train?
The clerk driver technician mechanic looked up.
He stepped back and saw — what a monster.
Can’t believe it. Rubbed his eyes and — yes,
it’s there all right. I’m all right. I do see
the monster. I’m part of the system.
I signed this form. Only now I am reading the rest of it.
This bolt is part of a bomb. This bolt is me. How
did I fail to see, and how do the others go on
fitting bolts. Who else knows?
Who has seen? Who has heard? — The emperor really is naked.
I see him. Why me? It’s not for me. It’s too big.
Rise and cry out. Rise and tell the people. You can.
I, the bolt, the technician, mechanic? — Yes, you.
You are the secret agent of the people. You are the eyes of the nation.
Agent-spy, tell us what you’ve seen. Tell us what the insiders, the clever
ones, have hidden from us.
Without you, there is only the precipice. Only catastrophe.
I have no choice. I’m a little man, a citizen, one of the people,
but I’ll do what I have to. I’ve heard the voice of my conscience
and there’s nowhere to hide.
The world is small, small for Big Brother.
I’m on your mission. I’m doing my duty. Take it from me.
Come and see for yourselves. Lighten my burden. Stop the train.
Get off the train. The next stop — nuclear disaster. The next book,
the next machine. No. There is no such thing.
Finally, I would like to say that it is an honour to receive this award. I
very much appreciate that Yoko Ono found me worthy to receive it. This
award acknowledges publicly what I have endured over 18 years in an Israeli
jail. I am committed to helping bring about peace between Palestinians and
Israelis and the abolition of weapons of mass destruction in the Middle
East. I follow in the footsteps of Yoko Ono who for many years has brought
a message of peace, non-violence and the abolition of nuclear weapons. The
way to peace is by disarmament and by respect for all human beings in all
the world.
I would like to complete this acceptance speech by respectfully mentioning
the work of John Lennon, who tirelessly campaigned for peace during his
short life. Together with Yoko Ono, he brought the message of peace alive
through his determination, strength, courage and integrity.
You may say I’m a dreamer,
but I’m not the only one,
I hope some day you’ll join us,
And the world will live as one.
one world free frdm all kinds of NWs,
Thank you.
Vanunu mordechai John Crossman.
,oct’3rd’ 2004.