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誰がために鐘は鳴る

バヌヌ氏について

誰がために鐘は鳴る
ウリ・アヴネリ
2005年4月23日
グッシュ・シャローム(pob 3322, テルアビブ 61033)による公表
http://www.gush-shalom.org

(元クネセット議員として、ウリ・アヴネリはバヌヌに対する制限措置についての今週のクネセット委員会での討議に参加した。そして、この記事の中でいくつかの愚かしい点を明らかにしている。彼はまたイスラエルの核の議論を貫き通していくために、バヌヌが犠牲となっている意義を説明している)

ブシェールの原子炉で働いていたジャララディン・タヘリというイラン人技術者がヨーロッパに逃亡し、そこでアヤトラ(訳注:ペルシア語圏のシーア派でmullahのうち、宗教心・学識の特に秀でた人物に与える称号 :リーダーズ英和辞典に拠る)たちの核兵器製造計画を暴露した。

タヘリは世界中でヒーローとして喝采を受けた。多くの組織が彼をノーベル平和賞にノミネートした。ブッシュ大統領も彼の勇気を称えた。アリエル・シャロンは彼を、「国の正義」の1人と呼びさえし、イスラエルに招待し、居住するよう勧めた。アヤトラたちは彼を反逆者、異教徒、十字軍兵士、シオニストだと非難した。

もちろんこれは全くの虚構のお話である。しかし、これはまさしくモルデハイ・バヌヌの話に対応している。彼は殆ど全てのイスラエル人たちから卑しむべき裏切り者と見なされており、またもや裏切りとはポルノグラフィーのように地理の話であることを証明している。

今週、私は元クネセット議員である特権を使って、「憲法及び法と正義」のためのクネセット委員会の会合に出席した。そこではバヌヌの件が討議された。会合においてクネセット議員たちは魚屋の言葉(魚屋たちに悪気はありません)で互いを罵りあった。2名のリクードのメンバー、ロニー・バロン(かつて屈辱的な解任をされる前は司法長官として数時間だけ務めた)とヤヒエル・ハザンは、バヌヌは人間でない以上、人権などないのだ、と怒鳴っていた。自身もまたリクードのメンバーである委員会議長のマイケル・エイタンがこれらの発言を強く非難したことは、あらゆる公平性からして言及されるべきである。

1986年にイスラエルの核の秘密のいくつかを英国の新聞に暴露したバヌヌは、すぐにモサドによって誘拐され、密かにイスラエルに連れ戻され、裁判にかけられた。彼は獄中での18年間の刑を服役した。殆どの間、彼は全く孤立した状態で勾留された。(彼は正気を保つために、何度も何度も繰り返して英語版の新約聖書を声に出して読み、こうして英語のしゃべる力を進歩させたと、私に語ってくれた。彼は今、ヘブライ語版の代わりに英語版を使っていると述べている)

釈放にあたって、彼は厳重な制限措置の下に置かれることとなった。すなわち、海外渡航の禁止、当局への事前通知なしでの国内移動の禁止、外国人との会話の禁止、インタビューに応じることの禁止である。最高裁はこれらの制限措置を指示した。バヌヌはそれらの殆どに違反し、数週間前にこれらの違反で起訴された。

制限措置は最初、1年間、科せられることとなっており、今週、期限切れとなった。クネセットの委員会はこれらの措置が延長される可能性について討議するところだったのだが、会合の2、3時間前になって、内務大臣のオフィール・ピネパ(労働党)が海外渡航禁止措置の1年延長の命令書に署名し、国内戦線の軍司令官が他の制限措置延長の命令書に署名した。(有事規程の下で)

委員会の会合では司法長官の代理がこの延長措置の政府側の論拠を並べた。(a)バヌヌはまだ危険な秘密を「頭の中に持っている」(b)彼は「驚異的な」記憶力を持っている。(c)機会があれば、彼は海外にこれらの秘密を暴露するだろう。

これらを支持する証拠は何なのだろう?

(a)獄中でバヌヌが書いた手紙の1つの中で、自分がまだ暴露していない更なる多くの秘密を持っていると、海外の文通相手に伝えている。彼は最初の機会にこれらの秘密を明らかにする意図があると表明した。

(b)釈放の2年前、すなわち核施設での勤務から16年後に彼の刑務所の監房において、純粋に記憶だけから、製造過程について詳細かつ驚くべき正確な青写真を描いてみせた。これらの図画は彼の監房で押収された1,000以上の文書の中から発見された。

これらの事実は奇妙を通り越している。刑務所から手紙を送る在監者はそれらの手紙が検閲されることを無論知っている。バヌヌは刑務所当局のみならず諜報機関もそれらの手紙を読むであろうことを知ることは必然的であった。彼が青写真を作成したときも、おそらくそれらが没収されることは知っていたであろう。

この全てのことは彼が自らに対し苦痛を与える人々を怒らせ、彼らに自らが壊れていないことを見せつけるのを意図したことを示している。最高裁が制限措置を確認した8ヶ月前に行なったように、その文書を深刻に受けとめるのは理解しにくい。恐ろしい秘密の暴露を意図している人物は、前もって当局にそのことを発表したりしないし、迫害者に対して青写真を用意したりはしない。

問題自身に関して

(a)彼は過去に暴露しなかった秘密を「頭の中に持っている」のか?

ありそうもない。

まず第1に、バヌヌの知識は18年前の過程と関連していることである。そのような知識が今日、役に立つものなのだろうか? 信じ難い。クネセット議員のゼハヴァ・ガロン(ヤハド)は会合の場でこう述べた。「イスラエルの核技術が19年間、何も変わっていないというのは想像するのも恐ろしい!」

第2に彼の暴露が英国の新聞によって暴露される前に、バヌヌは世界の指導的な原子物理学者の1人によって丸2日間、反対質問を受けていた。その後で、彼が依然として未公開の秘密を残しているとは信じ難い。

第3に、バヌヌが20年後に公表するために、秘密を「頭の中に持つ」と18年前に決意するほど世間慣れしていた、と考えるのは偏執病に近い。

第4にバヌヌは科学者ではない。彼は原子炉で技術者として働いていた。たとえ、彼が「驚異的な」記憶力を持っていても、たとえ彼の描いた青写真が不気味な程に正確だとしても、今日、それらのことが意味を持っているなどとは信じ難い。

これが実情だとして、制限措置の更新はどう説明するのだろう?

司法長官の代理は、彼らの目的が、違法であった彼の過去の行為で罰するのではなく、(彼は既に裁きにかけられ全ての刑に服役したのだから)新たな犯罪(更なる秘密の暴露)を防止するためだと、述べた。

これは疑わしい。バヌヌを沈黙させることはできない。全世界が彼に関心を持っており、彼が迫害されればされるほど、関心は高まるだろう。バヌヌを思いとどまらせることなどできない。彼はまったく「抑止できない」 undeterrible(新語を作るとして)。全く逆である。また、彼が外国人と接触するのを妨げることは不可能である。

(数ヶ月前の夕刻、私は東エルサレムの素敵なアメリカン・コロニー・ホテルの庭で座って、英国女優のヴァネッサ・レッドグレーヴとおしゃべりをしていた。彼女はイスラエル・パレスチナの平和のための精力的な運動家でもある。突然、私はバヌヌが散歩しているのに気づいた。私は彼を呼び寄せた。ヴァネッサ・レッドグレーヴは彼の獄中での経験に非常に興味深げであった。この種のことが起きることをどうやって防止できるのだろう?)

たった1つの説明がある。すなわち復讐である。国防相の国内治安部門長官のイヤヒル・ホレフはバヌヌを許すことができない。なぜなら、バヌヌは自らの立ち入る権利のない核施設の箇所を歩き回り、イスラエルの最も機密である施設で写真を自由に撮り、海外に密かに持ち出したことで、彼の治安体制をあざ笑ってみせたからだ。これは全く激怒させることであるけれども、報復行為もまた限度があるに違いない。

クネセット議員のエティ・リヴニからの質問に答えて、司法長官代理は今表明されている制限措置の論拠がもう1年間も有効であることを認めた。5年間、10年間も同様に。言い換えれば、制限措置は一生涯にも渡りうるのだ。

この件の中身について私の個人的な意見を

核兵器は私たち全てにとっての脅威である。トップにいるイランと共に、中東で更なる国々による核兵器の獲得をどこまでも防止するというのは不可能である。他のカテゴリーの大量破壊兵器(化学兵器と生物兵器)は既に近隣諸国に存在している。

長年、イスラエルはこの地域での核の独占を享受してきた。友人たちと私はこの独占が一時的なものであり、我々は平和を達成するために時を使わなければならないと警告してきた。私たちの指導者たちはこうしたことを妨害してきた。

今や目的は、包括的な和平調停の一部として、厳重な国際的、相互的査察の下に、大量破壊兵器のない中東とすることにしなければならない。それは可能であり実際的である。バヌヌが鐘を鳴らす時、彼は大衆的な覚醒に貢献しているのだ。

彼の行為はまたもう1つの理由で重要である。初めて、彼はイスラエルの大衆に対して、旧い原子炉固有の本当の危険への注意を喚起した。数名の元被雇用者たちが今、政府を訴えて、安全不備のためにガンに罹ったこと(そして、何人かは死亡した)を主張している。チェルノブイリのような災害の場合、一体、何が起きるのだろうか?もしくは地震、ミサイル攻撃があったら?誰がこのことについて考えるのか?それは誰の責任なのか?責任ある人々を誰が監督するのか?

バヌヌは本当の危険に注意を呼ぶために鐘を鳴らしている。彼が愉快な人間なのかどうか、彼の考えに人気があるのかどうか、あるいは12年間の独房生活の後にイスラエル国家のことをどう彼が考えているかなどは問題ではない。問題は彼が良い務めをしているのかどうかだ。

私個人として、彼は良い務めを果たしていると信じている。

原文は下記のURL
http://zope.gush-shalom.org/home/en/channels/avnery/1114333350

For Whom the Bells Toll
by Uri Avnery
23 April ,2005
Published by GUSH SHALOM – pob 3322, Tel-Aviv 61033
http://www.gush-shalom.org

[As a former Knesset Member, Uri Avnery took part in this week’s Knesset Committee discussion of the Vanunu restrictions, and in this article reveals some absurd details. He also explains the significance of the sacrifice of Vanunu, forcing through the nuclear discussion in Israel.]

An Iranian technician called Jalal-a-Din Taheri, who had been working at the nuclear reactor at Bushehr, managed to defect Europe, where he disclosed the Ayatollahs’ plans for producing nuclear bombs.

Taheri was acclaimed a hero throughout the world. A number of organizations nominated him for the Nobel Peace Price. President Bush praised his courage. Ariel Sharon invited him to come and live in Israel, even calling him one of the Righteous of the Nations. The Ayatollahs denounced him as a traitor, infidel, Crusader and Zionist.

This is, of course, an entirely fictitious story. But it corresponds exactly to the story of Mordechai Vanunu, who is considered by almost all Israelis as a despicable traitor – proving once again that treason, like pornography, is a matter of geography.

This week I used my privilege as a former Member of the Knesset to attend a session of the Knesset Committee for “the Constitution, Law and Justice”, in which the Vanunu affair was discussed. In the course of the session, Knesset members cursed each other in the language of fishmongers (by which I mean no offense to fishmongers). Two Likud members, Ronie Bar-On (who once served for several hours as Attorney General before being ignominiously removed) and Yehiel Hazan shouted that Vanunu had no human rights, since he was not a human being. It should be mentioned in all fairness that the chairman of the committee, Michael Eytan, also a Likud member, strongly condemned these utterances.

Vanunu, who in 1986 disclosed to a British newspaper some of Israel’s nuclear secrets, was kidnapped soon after by the Mossad, smuggled back to Israel and put on trial. He served his sentence: 18 years in prison. For most of the time he was held in total isolation. (He told me that, in order to keep his sanity, he would read the New Testament in English out loud, over and over again, and in this way improved his command of this language, which he now insists on using instead of Hebrew.)

On his release, he was placed under severe restrictions: he is forbidden to go abroad, forbidden to move inside the country without prior notification of the authorities, forbidden to speak with foreigners, forbidden to give interviews. The Supreme Court has upheld these constraints. Vanunu has violated most of them, and some weeks ago he was indicted for these violations.

The restrictions were initially imposed for one year, which came to an end this week. The Knesset committee was about to discuss the possibility of their being extended, but a few hours before the session, the Minister of the Interior, Ophir Pines (Labor Party) signed an order extending for another year the prohibition of leaving the country, and the Army Commander of the Home Front signed an order to extend the other constraints (under Emergency Regulations).

At the committee meeting, the representative of the Attorney General set out the government arguments for this extension: (a) Vanunu still “holds in his head” dangerous secrets, (b) He has a “phenomenal” memory, (c) If given the opportunity, he will disclose these secrets abroad.

What is the evidence to support this?

(a) In one of the letters he wrote in prison, Vanunu told his correspondent abroad that he was in possession of many more secrets, which he had not yet disclosed. He announced his intention of revealing these secrets at the first opportunity.

(b) Two years before his release – that is to say, 16 years after his work in the nuclear installation – he drew in his cell, purely from memory, detailed and amazingly exact blueprints of the production process. These drawings were found among the more than a thousand documents seized in his cell.

These facts are more than strange. An inmate who sends letters from prison knows, of course, that they are censored. Vanunu was bound to know that not only the prison authorities, but the intelligence services, too, would read them. When he made the blueprints, he certainly knew they would be seized.

All this indicates that he intended to provoke his tormentors and show them that he was not broken. It is difficult to take the documents seriously, as the Supreme Court did, eight months ago, when it confirmed the restrictions. A person who intends to disclose dreadful secrets does not announce this in advance to the authorities, and does not prepare blueprints for his persecutors.

Concerning the matter itself:

(a) Does he “hold in his head” secrets that he has not disclosed in the past?

Unlikely.

First of all, Vanunu’s knowledge concerns processes as they were 18 years ago. Can such knowledge be useful today? Hard to believe. As Knesset Member Zehava Galon (Yahad) remarked at the session: “It is terrifying to imagine that nothing has changed in Israel’s nuclear techniques for 19 years!”

Secondly, before the British paper published his disclosures, Vanunu was cross-questioned for two whole days by one of the world’s leading nuclear scientists. It is hard to believe that after that he still had any undisclosed secrets left.

Thirdly, it borders on paranoia to think that he was so sophisticated as to decide, 18 years ago, to “hold in his head” secrets in order to publish them 20 years later.

Fourthly, Vanunu is no scientist. He worked at the reactor as a technician. Even if he has a “phenomenal” memory, and even if his blueprints are uncannily exact, it is hard to believe that they have any remaining significance today.

If this is the case, how to explain the renewal of the restrictions?

The Attorney General’s representative insisted that their purpose is not to punish him for things he has done in the past, which would be illegal (since he has already been tried and served his full sentence), but to prevent new crimes (the disclosure of further secrets).

I doubt this. One cannot silence Vanunu. The whole world is interested in him, and the more he is persecuted, the more this interest will grow. Vanunu cannot be deterred – he is simple undeterrible (to coin a word). Quite the contrary. Also, it is impossible to prevent him from coming into contact with foreigners.

(Some months ago, I was sitting in the evening in the garden of the fabulous American Colony hotel in East Jerusalem, chatting with the British actress Vanessa Redgrave, a tireless campaigner for Israeli-Palestinian peace. Suddenly I noticed Vanunu strolling by. I called him over. Vanessa Redgrave was very interested in his experiences in prison. How can one prevent this sort of things happening?)

There remains only one explanation: Revenge. Yehiel Horev, the chief of the Internal Security Division of the Ministry of Defense, cannot forgive Vanunu for making a mockery of his security arrangements by wandering around the parts of the installation in which he had no business to be, freely taking photos in Israel’s most secret installation and smuggling them abroad. That is indeed infuriating. But vengeance, too, must have its limits.

The more so as the Attorney General’s man, answering a query from Knesset Member Etti Livni, admitted that the same arguments voiced now will also be valid in another year’s time, as well as in five and ten years. In other words, the constraints may be lifelong.

As for my personal opinion about the substance of the matter:

Nuclear weapons are a threat to all of us. It is impossible to prevent indefinitely the acquisition of nuclear weapons by more countries in the Middle East – with Iran in the lead. Other categories of Weapons of Mass Destruction (chemical and biological) do already exist in neighboring countries.

For years, Israel has enjoyed a nuclear monopoly in the region. My friends and I have warned that this monopoly is temporary, and that we must use the time to achieve peace. The hubris of our leaders has prevented this.

Now, the aim must be to free the whole region from weapons of mass destruction, under strict international and mutual inspection, as part of a comprehensive peace settlement. That is both possible and practical. When Vanunu rings the bells, he contributes to the public awakening.

His action is also important for another reason: for the first time, he has drawn the attention of the Israeli public to the real danger inherent in the old reactor, which is now more than 40 years old. Several former employees have now sued the government, claiming that they have contracted cancer (and some have died) because of safety failures. What will happen in the case of a Chernobyl-like disaster? Or an earthquake, or a missile strike? Who is thinking about this? Whose responsibility is it? Who oversees those responsible?

Vanunu rings the bells to call attention to a real danger. The question is not whether he is a pleasant person, whether his views are popular or what he thinks about the State of Israel, after 12 years of solitary confinement. The question is whether he is doing a good job.

I, for one, believe he is.

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